8月24日
気晴らしに詩を書いてみる。
歌
遠くの空から 歌が聞こえる
涸れた土地ではひとりの女が
小さな赤児を抱いている
微かな寝息と共に
やがて雨が降る
遠くの空から歌が聞こえる
博物館をそぞろ歩く
剥製の前に立ち止まる
老いた男は 失った過去を
朽ちた瞳の裡にみる
やがて雨が降る
遠くの空から 歌が聞こえる
煙草を巻き終えた青年は
叶わぬ恋に身を焦がす
書きかけのラブレター
そして雨が降る
遠くの空から歌が聞こえる
汗の乾いた農夫の座る
刈りたての道から青臭い匂いが鼻につく
少女に向けて仰いだ麦わら帽
やがて夜が来る
猶予
彼の部屋には時計がなかった。だから、彼が目醒めたとき、蒼ざめた景色が朝焼か残照かどちらによるものか、知る由もなかった。
彼が知りえたことはたった僅かなこと__依然、自分がここに居て、そして身体の芯まで渇いている___ということだけだった。
彼はキッチンに向かうと小さな冷蔵庫の扉を開いた。ハイネケンがひとつある。その発見は彼にとって意外に思えた違いない。
長いこと彼は十分に眠ることができず、身体、精神ともに疲れ切っていたはずだが、心は自然と穏やかだった。
静寂そのものだった。時々、鳥のさえずる声がした。しかし、それさえも彼が捉えていたかはさだかではない。
どのくらいの時間が流れたのだろうか。長い精神の沈黙ののちに一つの問いが浮かんだ。音韻は残響を残し、心の裡のどこか途方も無い彼方へと消えた。
それから間もなくだった。スマートフォンのけたたましいアラームが鳴り、徐々に彼は思考を始めたのである。